後妻業とは、相手の死後の遺産相続を目的に高齢の資産家男性の後妻になる生業のことです。
子供にとっては遺産を横取りされる深刻な脅威です。
得体の知れない女に狂った老父を何とかしてほしいという依頼が探偵社に来ます。
後妻業の手口と実態を紹介しましょう。
後妻業の女が結婚相手を見つける場所は、中高年対象の結婚相談所が多いです。
しかし、今後は高齢者のスマホ・アプリ活用者が増えると予想されるので、マッチングアプリ経由も増えるかもしれません。
交際開始後は自分の言うことだけ聞くように洗脳する傾向が強いです。
一般に子供や親族と仲良くしようとはしませんが、そこを上手にやって最後に裏切る達者な役者もいるかもしれません。
男を従順にしつけたら、公正証書遺言書というものを作成させて、自分一人に遺産を相続させるよう指定させます。
公正証書は裁判所の判決と同等の強力な効果を持ち、覆すことができません。
そういう内容の公正証書があった場合、未亡人となった後妻が本当に遺産を全部相続します。
父親の遺産を当てにしていた子供には本当に脅威です。
子供は「遺留分の請求」という手続きを取れば、法定相続分の一部を後妻に支払ってもらうことができますが、それが最大限の抵抗手段です。
ただ、遺留分侵害額請求権は、相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺贈や贈与などがあったことを遺留分権利者が知ってから1年の間に行使しないと時効により消滅してしまいます。
この制度を知ることもなく、もたもたしているうちに時効になってしまうことは多いのです。
その場合、本当に後妻が独り占めしてしまいます。
後妻は出費を惜しんで、亡夫の葬式さえ出さない場合があります。
その後、後妻は再び新たな独身高齢者の資産家男性を探し始めます。
公正証書は、公証役場で公証人に作成してもらう強力な効果を持つ書類です。
先ほど挙げた遺言公正証書以外の例としては、養育費の支払いに関してもよく作成されます。
口約束の養育費は途中で支払われなくなることが多いですが、公正証書を作っておくと別れた夫の給料や財産を即座に差し押さえできます。
公証役場は、地方自治体(県庁や市役所)ではなく法務省の管轄で、各都道府県に1つ以上あります。
県庁所在地の中心部にあることが多いです。
公証人になるのは引退した裁判官や検事が多いです。
公正証書の存在は作成者の生前に他者が検索できません。
子供が「後妻に全部相続させる遺言公正証書」があるのかないのかを知るには、父親当人に聞くしかないのです。
父親は生きている間、後妻の指示に従ってそれを秘密にする。
死後に後妻は突如公正証書を持ってきて権利を主張し、既に抵抗する術はないというわけです。
防止するには、父親が生きているうちに説得し、公正証書があるなら白状させ、破棄してもらわなくてはなりません。
相続というのは完全に合法なので、後妻業は安全なビジネスといえます。
夫の死を金に換えるビジネスとしては保険金殺人もありますが、最高刑は死刑の重罪であり、とてもリスキーです。
昭和の時代には多かったですが、保険会社の審査が厳格になって激減しました。
その一方、後妻業は裕福な独身男性を見つける苦労があります。
また、お金の回収時期が不確定なのも問題です。
夫は予想外に長生きする可能性もあり、いつ遺産を手にできるのかわかりません。
生きている間もぜいたくさせてくれて、いっしょにいて楽しい人ならいいですが、けちで面白味のない人なら結婚生活は地獄です。
そうして長生きしている間に地価や株価の暴落で資産が大きく目減りするリスクもあります。
お金の回収時期だけでなく回収額も不確定なわけです。
だからといって死ぬのを待てずに殺してしまうともちろん犯罪です。
後妻業が殺人に発展したと推定できる最近の事件で有名なものが2つあります。
【関西青酸連続死事件関係者】
結婚相談所などで知り合って結婚した高齢男性4人が青酸化合物による中毒で死亡した事件です。
彼らの妻だった筧千佐子は、逮捕前、取材に対しても饒舌に快活に無罪を訴えていました。
彼女はすでに罪を認め、死刑が確定しています。
しかし、深く反省・後悔する様子はなく、「なんでこうなっちゃったんだろうね」といった他人事のような話をしているようです。
【紀州のドンファン事件関係者】
和歌山県田辺市の資産家、紀州のドンファンこと野崎幸助氏(享年77歳)が覚醒剤中毒で死亡した事件。
野崎氏は覚醒剤との接点がまったくなく、死亡の状況も非常に不自然だったため、元妻・須藤早貴被告が覚醒剤で殺害したことが疑われています。
和歌山地検は殺人と覚醒剤取締法違反の罪で起訴しました。
55歳年下で結婚したばかりだった須藤被告の動機は明らかになっていません。
一説にはAV出演発覚と夫への対応が冷淡なことを理由に離婚を切り出され、それを防ぐためにやったと言われています。
詳細は不明のままですが、30億円とも言われる遺産を逃したくなかったのは間違いないと思います。
こういう女に高齢の資産家男性はどうして騙されてしまうのでしょうか?
まず、前の妻と死別・離婚して長い時間を孤独に過ごして心に空洞ができています。
人生の終末が近づいており、もはや何も残されていない虚しさを実感している。
お金は持っていますが、全然満たされていない。
子供はいたとしても疎遠で、家族のぬくもりの中で暮らしているわけではない。
最後の望みは、死ぬまでにもう一度若い女と愛し合うこと。
それが満たされるならお金なんかそんなに重要じゃない・・・そんな感じです。
そんな願いがかないそうになったら「たとえ嘘でも信じたい」くらいに思うのも無理はありません。
子供が説得しても、よほどの明白な証拠がない限り聞き入れません。
逆に子供の方が遺産ほしさに人生最後の恋を邪魔しようとしていると曲解し、激怒することでしょう。
お父さんが後妻業に引っ掛かっている可能性があるなら、説得にはしっかりした証拠が必要です。
後妻業をよく知る探偵に頼むのもひとつの手です。
では、どんな調査をしてもらえるのでしょうか?
聞き込みとデータ調査で対象の経歴を洗い出します。
本当はどこの誰でどんな人生を歩んできた人物なのか?
特に重要なのは結婚歴です。
過去に高齢者男性と結婚して遺産を相続したケースはなかったか?
回数が多い場合は殺人に手を染めていることもありえます。
聞き込みは、聞き込みとバレずにできる探偵社を選ばないと相手に伝わり、遮断されます。
これができる探偵社は限られています。
尾行と隠し撮りで相手の行動を記録するもので、現在の不審な行動を探ります。
第一に、他の高齢者男性と同時進行で交際していないか?
交際した相手と必ず結婚できるとは限らないので、確率を上げるために複数の種まきをしていることが多いからです。
第二に、相棒の男がいないか?
同棲中の恋人が司令塔の役割を果たし、デート場所への車での送迎までしているケースがよくあります。
以上の2点を中心に調べ、写真証拠を取ります。
手法的には浮気調査と同じで、どこの探偵社もできます。
しかし、顔が鮮明に写った良質な証拠写真を取れるかについては技量の差が出ます。
最後に後妻業をテーマにした小説や映像作品を紹介しましょう。
楽しみながら社会勉強ができるのでおすすめです。
黒川博行 著 文春文庫 740円(税別)
警察小説の名手である黒川氏による緊迫感溢れるストーリーです。
「後妻業」という言葉が世間に広まったのはこの小説によるところが大きいです。
後妻業の手口の具体的詳細が全部わかるといっても過言ではありません。
しかもラストは予想外の一転二転のどんでん返しで読者を虚無感の中に置き去りにします。
映画の大ヒットを受けてフジテレビがドラマ化しました。